2015/06/27

妊娠子宮における大動脈・下大静脈圧迫に対する傾斜角度の影響をMRIで調べる。

Effect of Lateral Tilt Angle on the Volume of the Abdominal Aorta and Inferior Vena Cava in Pregnant and Nonpregnant Women Determined by Magnetic Resonance Imaging.
Higuchi H, et al. Anesthesiology 2015;122;286-293


妊娠後期において、仰臥位ではIVCや腹部大動脈が圧迫されることが想定されており、これを軽減するために左半側臥位が用いられる。しかしこれらは想定の域に過ぎず、形態学的な証明はなされていない。今研究では、15°・30°・45°左半側臥位での妊婦と非妊婦の腹部大動脈と下大静脈の容量を、MRIを用いて形態学的に調査する。
健康な満期(37-39週)単胎妊婦と健康非妊婦、各10名が対象となった。肥満者などは除外。
仰臥位・左側臥位(15°・30°・45°)における腹部大動脈・下大静脈の容量を測定した。
測定レベルはL1-2椎間板とL3-4椎間板レベル。その理由は以下の通り。
理由①:L1-2より上のレベルでは、下大静脈周囲に十二指腸や右腎静脈などの構造物があり、解像度が低下するため。
理由②:L3-4より下のレベルでは、腹部大動脈や下大静脈は総腸骨動静脈に分岐するため。
腹部大動脈に関しては、傾斜角度により形の変化はあるものの、容量の明らかな差は認められなかった。
下大静脈に関して、非妊婦では仰臥位・左半側臥位いずれにおいても容量の変化はなかった。一方妊婦では、全例で仰臥位でIVCの圧迫が認められ、非妊婦と比べてもその容量は明らかに少なかった。(3.2±3.4mL vs. 17.5±7.8mL、平均差14.3mL;95%CI 8.3-20.2、P<0.001)
左半側臥位にすることで、下大静脈容量は明らかに増加していた。15°(3.0±2.1mL、平均差-0.2mL;95%CI -1.5-1.2、P=0.99)では容量増加はなかったが、30°(11.5±8.6mL、平均差8.3mL;95%CI 2.3-14.2、P=0.009)および45°(10.9±6.8mL、平均差7.7mL;95%CI 2.2-13.1、P=0.015)では有意に増加していた。
15°左半側臥位ではIVC圧迫を解除するには十分でなく、30°以上の傾斜で有意にIVC圧迫が改善された。


【memo】
こんな研究よくやるよ…と思っていたら、日本の研究だったでござる。
今研究では健康な妊婦が対象になっているが、やはり麻酔科医が想定しないといけないのは帝王切開術を受ける妊婦であると思われる。脊髄くも膜下麻酔下では、腹筋群の弛緩によりまた違った結果が出そうなことが予想される。しかし、今研究結果は、妊婦の循環動態を改善するための一助となりそうである。

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